#3-2 "EVR 製作ツール pt.1-2"

 さて、7年の月日が経過し舞台はアイスランドの首都レイキャビーク。

 この土地で現在の(2025年)デザインの礎である全てのEVRコンセプトが設計されるわけだが、アイスランドという辺鄙すぎる土地柄、"イケてる"ような工具は全く手に入らず、やはり覇権はドイツのKnipexのものなのであった..... (pt.1参照)

 なお、アイスランドについての話は長くなりすぎるのでまたいつか。

 さてアイスランドからヨーロッパに帰る途中、いよいよ本格的な製作の準備をーという気持ちが強まり工具をディグり直すことに。先入観を捨てて、先入観を捨てて、先入観を捨てて

......

ということは通用せず、Googleの検索には"Swiss Electronics Tool" , "Switzerland Tool" , "スイス 工具" ...... こればかりなのであった笑

 その結果、こんな動画に辿り着く。

 Ideal-tek SWISS

直感で感じたのは、なんというかコレだ!!!という感じである。20代前半であれば、より個人主義で職人が一本一本...みたいなスタイルの刃物に憧れたかもしれない(ぜひ、PolandのRENOMED社の超ハイエンドはさみを見ていただきたい。趣味のほうはこのメーカーの工具を寵愛している。)、だがIdeal-tekは高度に機械化、組織化された集団で、サイズもスケールも"いい具合"なのである。

もし、最高なツールが安定したクオリティで供給され続けるとしたらこんな会社のこんな時期なんだろうなぁと妄想する。きっとスウェーデン製Lindstromもこんな雰囲気だったんだろうなぁ.....

その後製品ラインナップを全部確認したのは、Leqtique EVRの実際の製造が始まってからのことだった。実際の製造の直前というのは、どうにもこうにもデザインの細かい部分のミスや、追い込み不足が発見され、最良の工具というロマンMAXな世界に浸かる時間はなかなか許されないのである。

 そして、2025年3月。このニッパーがついにやってきてしまった。

Ideal-tek ES542TX SWISS

これまで読み進めていただいていて勘のいい方ならお気づきかもしれない。

そうこのニッパーもタングステンカーバイド製なのである!!!!しかも今回はEREMのデザインと異なり、ヘッドがエフェクターの基板を製造するのに最適と言える小型サイズ!!そしてなんともLindstromに似ているようなバイトーンのグリップ。エルゴノミクスさも申し分ないような雰囲気。

現在2ヶ月ほど、かなり酷使してみたのでいつもの点数付けを記す。

 

Ideal-tek (Swiss/Italy) ES542TX 

断面のフラットさ : 9/10

切断能力(キャパシティー)  :  9/10

切れ味の持続性  :  NA(予想では9か10) 

切断時の手への衝撃  :  9/10

グリップのエルゴノミクスさ  :  10/10

バネ部分の経年変化(へたりやすさ)  :  NA(予想では7-9,ただし新品交換可能)

基板製造時におけるヘッドの精密性. : 9/10

総合点 : 9.8/10 (プロダクト領域の中では最高到達点。自分のようなタイプはこれをスイスパーフェクションと呼ぶ)

 

もう特に記すこともないくらい、今まで試してきた全てのニッパーのいいとこどりをしているように思える。ある程度色々試された方なら、これを手に取った瞬間(切断する前)、笑いが止まらないのではないか。書いていても笑えてくる。笑

マイナスポイントは二つ、バネ部となっている2つのスプリングが長時間使用しているとずれやすいこと。ただし、これによってフィーリングが変わるなど特に問題は生じていないので問題という問題ではないが、神経質な人は都度都度戻したくなるだろう。

 もう一つは、マイナスというか怖い部分なのだがEREMのように超硬質なタングステンカーバイドがある時パキッ!といかないかである。これに関しては数万回のカットは最低限必要なのでまた1年後にレポートすることにする。

 いずれにせよ、Leqtique EVR = ES542TXで決まりなのだ。

 この全体的なデザイン。そして、ファクトリーツアーの雰囲気から感じるオートメーションと、職人技の高度な融合。これら全てがEVRの理想としているところだ。

 今後、Leqtique EVR - SRTなどの完全なEVRの新作がリリースされることになるが、この会社の製品はそれのティーザーと言っていいほど、未だ妄想レベルではあるがそのデザインに近いのである。

 ところで、これは別の場所で詳しく書きたいのだがエフェクター作りにおいて3つの大事な工具最後の、ハンダゴテ、もしくはハンダつけについて。

 ここだけは、人間業では絶対に敵わない全/半自動の機械を知っている。

 人間のハンダ付けは、それに比べれば実に不均一でエラー率が異常に高い。20年近くエフェクター作りをしていると本当に一体どれだけのポイントをハンダしてきたかわからないが、それでも常にこれが完全解でないことをはっきり知ってしまっている。

 一番重要なのは、ひたすら自分でハンダして人間のフィーリングで最良と思しはんだの剪定、温度設定、コテ先のセット角、はんだ量etc....を経験的に導き出すことなのだ。

 エフェクター業界でも一般的になってきたPCBA(簡単に言えば、基板を全自動で完成させてくれるような外部サービス)を活用することはLeqtqiue EVR的には完全にNGである。

  例えばL'ブランドでは、音に影響の少ない部分をPCBA(台湾)で行い、重要な部分はLeqtique同様の部品で手ハンダをする。というようなバランスで量産を可能にしていた。

  だが、Ideal-tekの製造現場を見ていてもそうなのだが(動画上だが)、やはり高精度なニッパーの外形はかなりの大部分をCNC(プログラムされた切削マシン)で切削し、最後の刃付け(というか、その後の研磨工程)に職人技を。という具合である。エフェクターの個体差は、もちろん部品の誤差によるものがとても大きいが、実際のところ人間のはんだ付けのムラが無視できない。

  さて結論として、現時点で我々が理想にするのは、それこそ長年これまた自分のシグネチャーのように使用してきたWonder社のSignatureハンダ(これに関してはまたいつかゆっくり)を、長年のトライアンドエラーで導いたハンダ付けのプロファイルで、機械にインプットして超高精度で均一にハンダしていくことである。

  そうすることで、PCBAでは不可能な我々の経験値をヒューマニティーというパラメーターでインプットできるのである。そもそもPCBAとは音に関係ないような、ハンダつけ=つながっていれば良い。というようなプロダクトで活用されることが多いため(半田のメーカーを指定するようなことは、RoHS指定関連の話以外で音の向上などを目指すなどあまりにも現実的でない)、少なくとも我々Leqtique EVRで外部のPCBAサービスに頼ることは確実にない。

  ではなぜ、そう言った設備を導入して内製化しないのか?と言った疑問があると思うのだが、導入コストが本当に異次元なのである。笑

  理想としているハンダ付けのオートメーションに必要なものは、日本のメーカーの装置複数台なのだが、いずれは絶対にそこに向かっていきたい。それこそが、EVRデザインのクオリティーを高次元で安定化させる最後の鍵になるのだと思う。

......

 さて、ありえないほど話が脱線したが笑、次に少しプライヤーについても触れておきたい。

 まずこの前もお話しした通り、エフェクター作りに必要なのはマイナスドライバーと、ニッパーと、ハンダゴテのみだ。極論だが、グローバルな製作で導き出した答えである。テスターや、プライヤーといった存在は二次的なもので設計が完了し、実際の製造をする段階で必ずしも必要なものではない。そう、プラスドライバーみたいなものなのである。

特に自分はプライヤーを使わないようにミニマムにミニマムに生きてきたのだが.....(マイナスドライバーでどうにでもなる)

Ideal-tek ES6024 SWISS .....

 これは一体なんなんだ。。。異次元なほど先端がシャープでありえないほどのアジリティとプレジションを誇る。トータルのデザインも、F1マシンかと思わせるような洗練っぷり。

 まだ今月導入したばかりなのだが、このプライヤーを使う、スライダー(EVRデザイン内部のワイヤーを通している色の違う部品)にワイヤーを固定する工程がもう本当、異常に楽しい笑

 素晴らしい工具はありえないほどエフェクター製作に彩りを加えてくれるものは間違いないが、今回紹介したような工具たちはもうそんなレベルではない。暇さえあれば開閉したくなるような..... そんな人生に直接的に訴えかけてくるまさにアートプロダクトだと自分は思う。 

 さて、工具のお話についてはしばしお休みをいただく。なぜならば、次回はIdeal-tek社にお邪魔してファクトリーツアーをお願いする予定だからである。笑

 次回は4/26を予定しております。マニアックで需要があるか???でしかない内容ではありますが、現代が失いかけている"絶対にここでしか聞けないストーリー"というのをちゃんと伝えていこうと思います。

  どんな形でも一部でもいいのでそれが何かのアーティステックな閃きにつながりますよう。

 

Shun Nokina