EDM

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Regular price ¥19,800 Sale

 Leqtiqueとして、初の歪み系以外のエフェクターとなる本作EDMはコンパクトエフェクターにおけるデジタルディレイ設計のメインストリームと言うべき、PT2399チップの遅延回路を限界まで研究し、本来この魅力的なチップの持っているポテンシャルを最大限まで引き出した上で、Leqtique - Berylで実績の高いLinear Technology社のLT1213超高解像度オペアンプを使用した原音とのミックス回路に組み込むことで、ユニークな高解像度かつウェットな遅延音のアウトプットに成功しました。

 この回路アイデアは、PT2399言い換えるならば市場の大多数のコンパクトエフェクターのデジタルディレイのものと同様ですが、一意的に音色決定する各部の定数設定は定石的な数値が確立されているため、細部まで研究しなければ大きな差異を出すことの難しいフォーマットでした。しかしながらその中で、影響を大きく与えるべき定数に関してかなり大胆な設定を行なった上で全体のバランスを整えることにより、今までの市場に存在する同様のコンパクトエフェクターのデジタルディレイとは大きく異なる音色を備えています。

 ディレイに限らず空間系のエフェクター、と考えた時にまずLeqtiqueのデザイナーとして自分がすべきと思い浮かぶのは、今まで歪み系で培ってきた超高解像度ないしは超Hi-Fiな心臓部の素子の活用を直接的なアドバンテージとして活かすことでした。まずはLevelコントロールを左いっぱいに回し0とすることで、遅延回路が原音をそのままアウトプットする回路に影響しないため、このEDMがどれだけ原音の再現度が高いか体感していただけると思います。LevelコントロールはEDMの持つディレイサウンドをどれだけ原音にミックスしていくかというシンプルなコントロールなのですぐに直感的に最適なポジションを発見することができると思います。また、RepeatないしはDelayコントロールにも同様のことが言え、Repeatは3時方向近辺までは遅延された音が何回反響するか、そしてどの程度の減衰の仕方をするかを決定します。0では1回、3時方向では∞に近づいていきます。Delayに関しては、0にすることで50msのダブリング効果から、中間部の100~250msではスラップバックディレイ、またPT2399フォーマットとしては最大レベルのMax500msの遅延音をアウトプットします。

 ディレイとして一般的な上述のコントロールは操作性こそ非常に直感的に操作することが可能ですが、大胆な定数設定により原音重視で太く、湿り気のある遅延音であることがすぐにご理解いただけると思います。多くのPT2399フォーマットのデジタルディレイでは遅延音、特にローエンドに加工感を持たせて軽快なサウンドに仕上げているものが多いですが、本機は逆に遅延音をフラットレスポンスに近いものとし、アナログディレイのそれともまた異なる、高解像度ながらウェットな音像に仕上げてあります。

 他方、上記の説明はミニコントロールであるAmbient=0の場合であり、このコントロールは単にフィルターを構成して音を籠らせるだけでなく、Delayを長く設定した場合にTHDが悪化するPT2399の性格を補償するスタビライザーの役割も果たします。音楽的にはまず他3つのコントロールを設定した上でAmbientコントロールを右に回していただけるとすぐにアイデアに触れることが可能で、Levelコントロールを下げた時は音像はそのままに遅延音だけが相対的に下がるのと異なり、音量、減衰の仕方も少し下がりながら、音色もフラットレスポンスで原音をそのままアウトプットいうEDMの一つの性格とは真逆の、より空間に溶け込むような謂わば、Caveタイプのリバーブエフェクトをイメージしていただけると近いような音色となります。実用的には、早いパッセージを歪みエフェクターとともに弾くときに、ショートディレイをリバーブライクに活用する時はより効果的であったり、長いDelay,多めのRepeatと合わせて、Ambientも回し幻想的な音色を作ったりと、本機にある種の環境音楽(Ambient)を誘起させる全く別の音色の側面をもたらした不可思議なコントロールとなっています。

 最後におまけとして、Repeatが無限領域を超え始めると、遅延音が崩壊し始め、発振し始めますが多くのデジタルディレイがアナログディレイの発振音に近づけるのとは異なり、EDMの持つ太く存在感の強い減衰音由来(Ambient=0を推奨)で、クラブミュージックや”EDM”で聞くことのできるような発振音を発見できます。まずはRepeatを右に回しきり、その後発振したのちにDelayコントロールを0に、そしてまた右に回し切ったり戻したりとすることで演出されるユニークな発振音を是非、新しい音楽の創造のアイデアとしてご活用ください。

 Control : (Left to Right) Level, Ambient(mini), Repeat, Delay

Operation Voltage : 7V~18V, Current Consumption : Approx 34.9mA

 

 

 

EDM Interview

細川 雄一郎/Yuichiro Hosokawa 

https://yhosokawa.myportfolio.com

 

 

--Leqtiqueでは初となるディレイペダル。まずはそのモデル名と、名前の由来を教えてください。

 

ーShun Nokina(以下、SN):まず、モデル名は"EDM"です。その由来、それがどんな言葉の略なのかは皆さんに想像して欲しいと思っています。説明書に示唆があるので、是非それを参考に発振させてみてください!

 

--ブースターや歪みだけをリリースしてきたLeqtiqueがなぜ、今このタイミングでディレイをリリースすることとなったのでしょうか?

 

ーSN:理由は一つではありませんが、ずっと歪み系を作ってきたので、自分では気づかないうちに「今までの延長上のものを作ってしまうのではないか」という懸念があったのと同時に、自分でも設計したことのないものにチャレンジしたかったというのが大きな理由です。また、今までは制限をかけずに設計を行っていましたが、今回は「PT2399というチップ(※デジタルディレイを作るためのIC)でどこまでできるか」という枠組みを決めて設計したので、それも新たな試みでした

 

--PT2399と聞いてもエフェクターを作る人以外には通じないと思うので聞いておきたいのですが、PT2399とはどんなチップなのでしょうか?例えば、音色的にはこんな特徴がある、のような。

 

―SN:一言で言うなら、ある程度の機能の制限を持った比較的容易にディレイが作れるチップです。エフェクターの設計ネタとしてはとても有名なチップで、いくつかの人気エフェクターにも使われているものですが、僕の中ではMad ProfessorのDeep Blue Delayがこのチップの性能を限界まで引き出しながら個性を作っているな、と感じます。音色的にどんな素性があるかということには言及しにくくて、それはそのチップの使い方次第になります。例えば、先述のDeep Blue Delayと僕の作ったEDMとでは、同じチップを使っていながら全然音が違いますから。

 

--EDMは、根本的にはどのようなコンセプトで作られたディレイなのでしょうか?

 

―SN:PT2399を使ったディレイって、ディレイ音の低域が軽いものが多いように感じていて、そうではなくて、もっとしっかりとした音がフラットに戻ってくるディレイを作りたいと思っていました。それがコンセプトですね。嘘くさくない、フラットでナチュラルなディレイサウンド。普段使っているアンプのリバーブを少し上げたかのような、あの感覚です。

 

--なるほど。

 

―SN:あと、Leqtiqueのブランドからディレイが出せることに大きな意義を感じています。と言うのも、最近では歪みやブースターは低価格で良いものがどんどん作られていますが、ディレイやリバーブではそうではないように感じていて。良いディレイをLeqtiqueの価格帯で出すことができて良かったなと思っています。

 

--ということは、値段はLeqtiqueの他のエフェクターと同じ価格?

 

―SN:そうですね。

 

--装備された4つのコントローラーはそれぞれどんなものでしょうか?

 

―SN:大きいツマミはLevel、Repeat、Delay、それぞれディレイ音の音量(原音に対するディレイ音のミックスレベル)、ディレイの回数、ディレイタイムの設定です。そして、小さなツマミはAmbientになります。

 

--Ambientとは?

 

―SN:ディレイ音のトーン、ツマミを回すことで音を籠らせていく、と言ってしまえばそれまでなんですけど、実際に使ってみるとどんな有用性があるかと言うと、例えばディレイでもリバーブに近づけるような、反響音を滲んだ感じにすることができますね。ディレイ音の音量がどうこうではなく、リバーブに近づくんです。ですので、クリーントーンではもちろん、歪みとの相性に長けています。歪みとディレイを一緒に使うと何を弾いてるか解らなくなる、みたいな話ってあると思うんですけど、Ambientを上げて使うとディレイ音が原音に被さってこないので、うまく馴染んでくれます。

 

--確かに、一般的なディレイのトーン補正とは少し印象が違いました。篭るというより、ディレイ音の距離が遠くなるような。技術的にはどのようなことをされているのでしょうか?

 

―SN:歪みでも同じなのですが、回路には音に対してクリティカルに作用する重要なフィルタリングと、回路を動かすために必要だけど重要ではないフィルタリングがあると考えていて、そのクリティカルなフィルタリングのうちの一つをAmbientが操作しています。

 

--最長のディレイタイムは何秒でしょうか?

 

―SN:500msです。

 

--先にMad ProfessorのDeep Blue Delayの名前も先に挙がりましたが、特にライバル視した他ブランドの製品はありますか?

 

―SN:PT2399を使ったディレイって似通ってしまうことも少なくないのですが、その中で最も個性が際立っているのがDeep Blue Delayだと思っています。

 

--そもそも、Shun Nokinaさんが考える優れたディレイサウンドとは、どんなものでしょうか?

 

―SN:個人的にはリバーブ派で、ディレイサウンドの中でもAllan Holdsworthがディレイを8つ使って作り出すような、ディレイを超越したサウンドが好みではあるのですが、まず純粋に超クリアなデジタルディレイ的なサウンドと、対照的にリバーブ的な曖昧なサウンドです。今回使ったPT2399は、ディレイタイムを長く設定すると機能的な限界に近づく分、ディレイ音が不鮮明になるのですが、今回のEDMでは回路、定数の設定、パーツの選択によって恐ろしくクリアなサウンドが出せるようになっていて、ディレイタイムを短くすればかなりハイファイなサウンドが出せます。逆にディレイタイムを長く設定してAmbientコントローラーを併用すれば、リバーブ的な曖昧なサウンドも出せます。

 

--ディレイ以外にもコンプレッサー、モジュレーションなどのジャンルもあったと思うのですが、その中からディレイを選んだのはなぜでしょうか?

 

―SN:先に挙げたPT2399というチップの存在ですね。もともと、PT2399に魅力を感じていました。多くのメーカーがPT2399を使ったディレイを作っていますが、それぞれ似通っていたり、多少の差異があったり。じゃあ、僕が作ったらどうなるのか?ということに挑戦したかったんです。PT2399を使ったディレイは歪みで言うところのTS系のようなものだと考えています。

 

--PT2399以外にもデジタルディレイを作れるICはありますし、その気になればアナログでもディレイを作れたと思います。その中でもPT2399を使いたかったと?

 

―SN:歪み系に話を置き換えた時、様々なメーカーがTS系を作ってますよね?それはメーカーとしてチャレンジングでもあるし、そういった(TS系の)音が欲しい、といったことがあると思うんです。PT2399も同様です。ディレイを作るにしても1種類しか作れない訳ではないですから、まずはPT2399を使ったオーソドックスなフォーマットのディレイを作ってみたかったということですね。「まずは」と言えば「まずは」かもしれませんが、「すべて」とも言えると思います。TS系もそんなニュアンスがありますよね。

 

--では、もし今回のEDMにとって最も重要なコンポーネントがあるとすれば、それはPT2399でしょうか?

 

―SN:そうですね。そのPT2399と、ディレイ音と原音をミックスする回路に使われるオペアンプ、その二つだと思います。その原音をミックスする回路については、僕はご存知の通りハイファイ志向なので、原音を太くクリアにそのまま残すためにいつも通りのことをしている、という感じです。ディレイ音に関してはPT2399という素子が重要ではあるんですけど、僕はそれ以上にPT2399にまつわる定数の設定の方が重要だと思います。PT2399の性能をいかに活かすか、もしくは殺すとは言わないまでも、あえてフィルタリングを深くかけたりだとか、音色にも関係するリピートの回数を決めるのも定数次第ですし。

 

--ちなみに、原音に関係するミックス回路に使われているオペアンプがこのリニアテクノロジー社の"LT1213"ですか?

 

―SN:そうです。LT1213は非常に原音に忠実で、例えば同社製のLT1498も十分に原音に忠実ですが、もう少し軽くて凛とした感じになりますし、他にLT1112も良いですね。

 

--抵抗はいつも通りPRP社製のものが多く使われていますね。

 

―SN:いつも通りです。ただし、抵抗値によってはマニアックな値が必要な場合があるのでその時はDALE社製のRN55を使っています。

 

--このトランジスタのようなパーツはなんでしょうか?

 

―SN:それはレギュレーターですね。PT2399って5.0Vにレギュレートして使われることが多いのですが、僕の場合は6.0Vで動かしています。PT2399の定格値は6.25Vなのですが、そこにかなり近い値で動かすことによって、エフェクターのダイナミクスに大きく関わるシークレットだったりします。

 

--Leqtiqueの全製品にある表面の塗装の模様(Swirl)は各モデルに関連した配色が選ばれていると聞いていますが、今回はなぜこの配色となったのでしょうか?

 

―SN:今回、ブースターを除くと補助的なデバイスを作るのは初めてだったのですが、その補助デバイスとして他のエフェクターと並べるということを念頭に置きつつ、自分らしい個性を出したつもりです。

 

--色自体に意味がある、といったことはあるのですか?

 

―SN:色自体にも意味はあるのですが、この前戸高さん(※戸高賢史 Art School、MONOEYSE、Ropesなど)がウチの工房にいらっしゃったときに、”9/9S"(島村楽器限定モデル)を見て言った「ディレイがこの色だったらいいのにな」というセリフがずっと心に残っていて、それに似た淡さを大本にしています。僕が大好きなImpressionistのMonetを意識したものがありますね。

 

--Leqtiqueの他の製品と同じように、EDMものちにL'ブランドから発売されるのでしょうか?

 

―SN:出したいですし、出そうと思ってはいるのですが、いかんせんパーツの点数が歪み系などと比べて多いので、発売はかなり先になると思います。

 

--最近ではLeqtiqueブランドで2in1のシリーズを多く発表していますが、その中にEDMも組み込めるようになりますか?

 

―SN:やろうとしています。やはり、歪みとディレイの2in1は需要が多いですから。例えば、僕だったらBerylとEDMですね。セッションに持っていくような用途には最適だと思います。

 

--最後に、今回のEDMはLeqtiqueとしては初のディレイペダルだった訳ですが、今後にまた歪み系以外のエフェクターを発表する予定はありますか?

 

―SN:ハッキリとはないですけど、そろそろ"Zolo EQ"を出したいな、とは思っていますね。あれはイコライザーなので、歪み系やブースターなどとは違うカテゴリーかと。ただし、Zolo EQは限界を無視して徹底的にこだわり抜いたカスタムラインから出そうとしているので、あまり希望に添えるような金額にはならないかもしれません…

 

※↓今回は、開発途中からの長編ドキュメンタリーになっているので、EDMの音はもちろん、是非設計段階から作品までのリアルなストーリーもお楽しみください。